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東京で「谷」のつく地名は多い

雪ヶ谷の由来について」で触れたとおり,東京で「雪」を冠する地名は雪ヶ谷のみですが,「谷」のつく地名は多くみることができます。思いつくだけでも,市ヶ谷,四ツ谷,千駄ヶ谷,阿佐ヶ谷,世田ヶ谷,祖師ヶ谷,渋谷などが挙げられます。いずれも,周囲より一段低くなった谷状の土地に栄えた「まち」です。これらの土地は,武蔵野台地が果てしなく長い時間にわたって侵食を受けて形成されたもので,大田区の西北部にある雪ヶ谷もそのひとつです。

武蔵野台地は青梅を扇頂とした扇状地が基盤となっています。武蔵野台地の東部,すなわち東京都区部の西側は中小河川の侵食により谷底の低地が樹枝状に入り組み,舌を伸ばしたような細長く突き出た台地が削りだされています。これらの台地には淀橋台,久が原台,荏原台などといった名前がつけられています。東京の市街地はこうした低地と高台の入り組んだ地形の上で発展してきました。

谷底で発展したまち「渋谷」

渋谷を例にとると,武蔵野台地(淀橋台)が渋谷川(穏田川・宇田川)によって開析された谷の底で発展してきました。渋谷駅は東側の宮益坂と西側の道玄坂に挟まれたすり鉢状の谷底に位置しています。それに対し新宿は甲州街道に沿った尾根筋で栄えた高台のまちとなります。

図1に新宿から渋谷までの標高値をグラフで表しました。新宿駅付近の標高が37.4米,渋谷駅付近の標高が14.8米ですので,新宿駅付近と渋谷駅付近の標高差は22~23米ほどあります。同図より渋谷駅付近は周辺より低地に位置していることがわかります。

【図1】新宿-渋谷標高差

図1 新宿-渋谷標高差

地理院地図(2万5千分1地形図名: 東京西部,東京西南部)をもとに,甲州街道(新宿駅付近)から玉川通り(渋谷駅付近)を直線で結び約175メートル間隔の標高値をグラフ化した。

「雪ヶ谷」の高低差

さて,本題の雪ヶ谷周辺を見ていきましょう。大田区北西部は,東側が荏原台,西側が久が原台となっており,東西の丘陵地が呑川を挟むように複雑に入り組んだ地形をしています。表1に雪ヶ谷地区の標高一覧を示しました。同表より雪ヶ谷地区で標高の一番低いところが3.7米(東雪谷5丁目),標高の一番高いところで32.9米(東雪谷2丁目),標高差は実に29.2米もあることがわかります。

表1 雪ヶ谷地区標高一覧(単位:メートル)

大田区内全域を2メートルメッシュに分け,19,561,708地点の標高を計測。これを,区内216町丁目ごとに最低・最高・平均をデータ化。その中より東雪谷および南雪谷を抜粋した。
(出所:東京都大田区, 「津波対策事業(大田区内町丁目別標高一覧)」, 2012年12月)

町丁目名最低標高最高標高平均標高
東雪谷一丁目11.131.823.4
東雪谷二丁目 7.632.921.3
東雪谷三丁目 6.132.320.2
東雪谷四丁目 8.930.420.0
東雪谷五丁目 3.729.018.1
南雪谷一丁目 7.924.618.3
南雪谷二丁目18.225.023.3
南雪谷三丁目 6.925.016.3
南雪谷四丁目12.425.021.8
南雪谷五丁目 5.322.911.7

雪ヶ谷地区における中原街道の高低差

次に,大田区西北部を東西に横切る中原街道から雪ヶ谷地区の標高値を見ていきます。図2に雪ヶ谷地区における中原街道の標高値の計測地点を記しました。赤線が中原街道,青線が洗足池から学研通りを結ぶ道です。計測地点は赤丸で示し,中原街道沿いの「A:環状7号線の交差点(南千束交差点)」から「I:環状8号線の交差点(田園調布警察前交差点)」までの9箇所。途中の「C:洗足池交差点」から分岐して「ハ:学研通りの東急ストア前」までの3箇所です。

【図2】雪ヶ谷地区における中原街道の標高値の計測地点

図2 雪ヶ谷地区における中原街道の標高値の計測地点

・国土地理院淡色地図(25000)に中原街道(環状7号線から環状8号線間)を赤線,洗足池から学研通りを青線,標高の計測地点を赤丸で加筆した。
・この地図は,国土地理院長の承認を得て,同院発行の電子地形図(タイル)を複製したものである。(承認番号 平26情複, 第493号)
・なお,この地図を第三者がさらに複製する場合には,国土地理院の長の承認を得なければならない。

はじめに,図2の赤線を見ていきましょう。スタート地点であるA地点(南千束交差点)からB地点(洗足坂上交差点)にかけて緩やかな登り坂が続きます。B地点の標高は32.7米で,この付近が雪ヶ谷地区における中原街道の最高地点となります。B地点を過ぎるとC地点(洗足池交差点)に向けて,やや勾配のある下り坂に入ります。C地点の標高は20.3米となり,B地点とは10米以上の高低差があります。C地点を過ぎると中原街道は高台に入っていきます。D地点(笹丸バス停留所付近)は標高29.9米でこの付近が雪ヶ谷の尾根筋となります。D地点から先は,呑川に向けて再び下り坂に入ります。 E地点(石川台駅付近)の標高は20.0米,お隣の洗足池駅前とほぼ同じです。F地点(呑川・石川橋)の標高は13.6米,この付近が雪ヶ谷地区において中原街道の最も標高の低い場所となります。呑川を通り過ぎると,三たび上り坂に入ります。G地点(アルプス電気付近)に差し掛かると比較的高低差は少なくなり,I地点(田園調布警察前交差点)まで概ね標高22~24米前後となります。

続いて,図2の青線,C地点(洗足池交差点)からハ地点(学研通りの東急ストア前)までを見ていきます。C地点の標高は20.3米です。池のあるC地点は,周囲の高台であるB地点(標高32.7米)やD地点(標高29.9米)と比べると標高が低いことがわかります。青線の道は概ね緩やか下り坂となっており,イ地点(小池小学校付近)で標高13.6米,ロ地点(荏原病院の東側)で標高11.3米,ハ地点で標高9.8米,池が隣接するC地点よりも更に低地となっています。中原街道以南の低地は,古来より水害に悩まされており,大雨が降ると洗足池の水があふれ本門寺付近まで水浸しになったと伝わっています。下水が整備された現代でも浸水被害が起きており,近年では平成25年7月23日に発生した局地的大雨により,学研通り(上池台3丁目,5丁目付近)が冠水,一部の住宅で床上浸水する被害が発生しました。

計測地点の標高地を表2に示しました。 中原街道の標高値を改めて見ると,特に上池台から東雪谷(A地点からF地点)は高低差が大きいことがわかります。当地における中原街道の最高地点と最低地点の標高差は19米程。自動車が一般的でなかった頃,この付近は中原街道の難所だったことが想像できます。中原街道だでなく,これより南側の住宅地においても急な坂道が何本も東西に走っています。 雪ヶ谷は文字通り起伏に富んだ「谷のまち」であることがわかります。

表2 雪ヶ谷地区における中原街道の標高値(単位:メートル)

地理院地図(2万5千分1地形図名: 東京西南部)をもとに,中原街道(南千束交差点から田園調布警察前交差点)の標高値及び,中原街道の洗足池交差点から学研通りの東急ストア前の標高値を測定した結果を表に示した。計測地点は図2を参照。

計測地点(図2の赤線)標高 計測地点(図2の青線)標高
A  (南千束交差点)29.1 C  (洗足池交差点)20.3
B  (洗足坂上交差点)32.7 イ  (小池小学校付近)13.6
C  (洗足池交差点)20.3 ロ  (荏原病院の東側)11.3
D  (笹丸バス停留所付近)29.9 ハ  (学研通りの東急ストア前)9.8
E  (石川台駅付近)20.0
F(呑川・石川橋)13.6
G  (アルプス電気付近)21.3
H  (雪が谷大塚駅前交差点)23.9
I  (田園調布警察前交差点)23.6

<参考資料>

  • 東京都大田区(2012) 「津波対策事業(大田区内町丁目別標高一覧)」, [online]https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/chiiki/bousai/tsunamitaisaku/toei.html(参照2014-9-19).

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